1. はじめに — 「脂質で走る」とは何か
長距離ランナーなら、一度は耳にしたことがある言葉です。
「ウルトラマラソンは脂質で走る」
この言葉は、単なる「脂肪を燃やす」という意味ではありません。
実際には、血液中の脂質とコレステロールの巧妙なネットワークが走れる体を作っているのです。
ランナーの体内では、LDL、HDL、中性脂肪がそれぞれ異なる役割を担い、筋肉に燃料を届け、余ったものを回収し、長時間走るための効率的なエネルギー供給システムを形成しています。
本記事では、健康診断の数値の意味から、ランナー特有の脂質代謝の仕組み、脂肪とコレステロールの本当の役割まで、1万字で徹底解説します。
2. 健康診断のコレステロールは本当に「危険」なのか?
多くの人は、健康診断でLDLコレステロールが高いと「悪玉」と思い込みます。
例えば、LDL122mg/dLでB判定になると、「心臓病リスクあり」と単純に判断されることがあります。しかし、これはランナーには当てはまりません。
2.1 数値の裏側
- LDL(悪玉):肝臓から全身にコレステロールを届ける配送トラック
- HDL(善玉):余ったコレステロールを回収する回収トラック
- 中性脂肪(TG):血液中で燃料として運ばれるガソリンタンク
持久系ランナーでは、中性脂肪が低く、HDLが高いことが多いため、LDLがやや高めでも血管に脂肪が残りにくく、心血管リスクは低いのです。
つまり、数値だけで判断する健康診断のB判定は、ランナーにとっては冤罪とも言えます。
2.2 一流ウルトラランナーのLDL
- トップランナーのLDLは130〜160mg/dL程度
- HDLも高く、中性脂肪は低め
- LDL/HDL比も理想的 → 動脈硬化リスクは低い
血液の数値だけを見ると「危険」に見える場合でも、体内では燃料輸送システムがフル稼働している状態です。
3. LDLとHDL — コレステロールのトラックネットワーク
3.1 LDL=配送トラック
LDLは、肝臓で作られたコレステロールを体の各組織に運ぶ役割を担います。
筋肉やホルモン生成に必要なコレステロールを届けるため、持久系ランナーには不可欠な存在です。
3.2 HDL=回収トラック
HDLは余ったコレステロールを回収し、再び肝臓に戻す役割があります。
血管壁にコレステロールが溜まらないようにするので、LDLが多くてもHDLが高いと安全です。
3.3 LDL/HDL比が意味するもの
| 比率 | 意味 | リスク |
|---|---|---|
| 低い(HDL多め) | 回収トラックが多い | 血管に脂肪が溜まりにくい |
| 高い(LDL多め) | 配送トラックが多すぎ | 血管に脂肪が残る可能性 |
ランナーの場合、HDLが高く中性脂肪が低いため、比率で見ると心血管リスクは低いことが多いです。
4. 中性脂肪はガソリンタンク
中性脂肪は、血液中で脂肪酸として筋肉に届けられ、エネルギー源になります。
皮下脂肪は倉庫、血中中性脂肪は配送用のガソリン、と考えるとイメージしやすいです。
4.1 ランナー視点
- 中性脂肪が低すぎる → 燃料不足で糖に依存しやすい
- 適度にある → LSDやウルトラマラソンで脂肪燃焼が可能
5. 脂質代謝型ランナーの特徴
脂質代謝型ランナーとは:
- LDLやHDLが高め
- 中性脂肪が低め
- 長距離走で糖依存を抑え、脂肪を効率よく燃やせる
この体質は、まさに「脂質で走る」体の理想形です。
5.1 LSDと脂肪燃焼
スロージョグや長距離走では、心拍数を低く保ちながら脂肪燃焼が促進されます。
筋肉への脂肪酸供給がスムーズになり、LDL・HDLの輸送ネットワークも活性化されます。
6. 浮き輪=皮下脂肪の防衛本能
ランナーでも悩む「お腹周りの浮き輪」。
皮下脂肪は最終防衛ラインとして残されるため、燃焼されにくいのです。
6.1 落ちにくい理由
- 血流が少なく燃焼効率が低い
- 体が重要なエネルギー貯蔵として保持
- 長距離走ではまず血中脂肪や内臓脂肪が優先的に使われる
6.2 防衛本能と食欲
脂肪が減ると、脳が燃料不足を察知して食欲を刺激します。
- レプチン低下 → 満腹感減少
- グレリン上昇 → 空腹感増大
- ドーパミン → 高カロリー食品への欲求増
立川マシマシや唐揚げへの欲求は、体の防衛本能の表れです。
7. ドーパミンと悪魔の選択
脂肪を守ろうとする防衛本能は、脳の報酬系(ドーパミン)と連動しています。
- 甘い物や脂っこい物を食べるとドーパミンが出る
- 快楽を得る代わりに、理性での判断が後回しになる
- 脂質代謝型ランナーは敏感 → 高カロリー欲求が強くなる
8. 脂肪は悪ではない
脂肪は決して悪ではありません。むしろ、防衛本能が働くほど必要な存在です。
8.1 ポジティブな役割
- エネルギー蓄え:長時間活動できる予備燃料
- 体温・臓器保護:皮下脂肪は断熱材・クッション
- 脂質代謝の土台:血中脂肪の安定供給
9. 実践編 — ランナーの脂質戦略
9.1 LSD・ロング走
- 血流が多い大腿・臀部の脂肪から優先的に燃焼
- 血中中性脂肪も筋肉に届きやすい
9.2 閾値走・インターバル
- 高強度で糖代謝が活性化
- 脂質代謝と糖代謝を両立する体作りに有効
9.3 食事戦略
- 脂肪・糖質を適度に補給しつつ、極端なカロリー制限は避ける
- 浮き輪を減らすには、総消費エネルギー>摂取エネルギーの状況を維持
10. まとめ
- LDL・HDL・中性脂肪は燃料輸送ネットワーク
- 健康診断のLDL判定はランナーには当てはまらない場合が多い
- 皮下脂肪は最終防衛ライン、防衛本能が働くほど重要
- ドーパミンは快楽と引き換えに高カロリー誘惑を増やす
- LSDや長距離走は脂質ネットワークをフル活用する
脂質で走る=血液の中の配送トラックと燃料タンクをフル活用する体作り
コレステロールも脂肪も、ランナーにとっては敵ではなく味方です。

